オノ・ヨーコの「グレープフルーツ・ジュース」
ジョンレノンの詩が短く端的な表現になったのは,日本の短歌や和歌などをヨーコに教えてもらってからだと言います。そして限られた言葉の中に宗教観や思想を表現するジョンレノンの作風にオノ・ヨーコが影響を与えたとすれば,そのヨーコのルーツはどこにあるのでしょうか。

オノ・ヨーコの詩集『グレープフルーツ・ジュース』にある「想像しなさい。千の太陽がいっぺんに空にあるところを。…」という一節は,印象的です。後年ジョン・レノンは,「グレープフルーツ・ジュース」から名曲「イマジン」の着想を得たと語りました。半世紀以上経っても今なお世界中の平和の集いで歌われるジョンの名曲と平和へのメッセージに深く影響を与えたことを示す作品だと言えるのでしょう。
ジョン・レノンの「イマジン」はリリースされるやいなや日本でも瞬く間にヒットし,私も気がつけば自然と口ずさむようになっていました。そして多くのファンが一度は,イマジンの歌詞を辞書で調べたことがあると思いますが,私もその一人です。曲の全文を辞書で一つ一つ調べて,日本語訳にして翌日,学級で自慢した記憶があります。非常に読みやすい命令形の表現で構成されていて,調べていく中で「宗教」が religion と英訳されていることを知りました。
ところで,この「宗教」という語は,もともと仏教の「宗(おおもと)の教え」で,究極の原理や真理に関する教えのようです。幕末期に「強く結びつけること」という意味の「Religion」の訳語として採用され,明治初期に広まったそうです。
「イマジン」の歌詞には,「殺す理由も死ぬ理由も無く そして宗教も無い さあ想像してごらん」という詩の一節がありますが,この「宗教」を日本語で受け止める時,どうしても先述の仏教的由来が思い起こされます。また「Imagine there’s no countries It isn’t hard to do (国なんて無いんだと想像してごらん そんなに難しくないでしょう)」といった表現もあります。
単なるこじつけですが,幕末の大政奉還や明治期の廃藩置県をはじめとする短期間で急激な新しい国家体制の再編とも響き合うように感じられます。また,復古神道の考え方を背景に,天皇を国家の中心に据える体制づくりを急ぎました。その過程で,長く続いてきた仏教優位の神仏習合は解消され,やがて廃仏毀釈へと一連の動きに発展していきます。

| ■ オノ・ヨーコの詩集「グレープフルーツ」の中の歌詞 ・「想像しなさい。 千の太陽が いっぺんに空にあるところを。一時間かがやかせなさい。それから少しずつ太陽たちを 空へ溶けこませなさい。ツナ・サンドウィッチをひとつ作り 食べなさい。ある金額のドルを選びなさい。そして想像しなさい。」 ■ イマジンの歌詞 ・Imagine there’s no Heaven(想像してごらん 天国なんて無いんだと) It’s easy if you try(ほら,簡単でしょう?) No Hell below us(地面の下に地獄なんて無いし) Above us only sky(僕たちの上には ただ空があるだけ) ・Imagine all the people(さあみんな想像してごらん) Living for today(ただ今を生きているって) ・Imagine there’s no countries(想像してごらん 国なんて無いんだと) It isn’t hard to do(そんなに難しくないでしょう?) Nothing to kill or die for And no religion too(殺す理由も死ぬ理由も無く,そして宗教も無い。さあ想像してごらん) Imagine all the people Living life in peace(みんながただ平和に生きているって) |
明治期に国家神道をリードした税所篤人

・霧島神宮
一方で,「神道」は英語でも「Shinto」と固有名詞として扱われます。これは,神仏習合から神仏分離を経て国家神道へと突き進んでいった明治維新の特殊性を反映した表現とも言えます。その時代は,オノヨーコの曾祖父「税所篤人」が霧島神宮の宮司職を長く務めた激動の時期と重なります。仮に,ヨーコの創造力の源に篤人の思想や時代背景「藩政時代から天皇を中心とした世」が影響しているのだとすれば,大変興味深いことだと感じております。それこそ,ジョンが「鹿児島の霧島神宮に行ってみたい」に繫がっていくのです。

・税所神社
