今から30年ほど前,県作文コンクールの審査員をしていた時の話です。県内から地区審査を経た多くの優秀な作品が集まるので学年別に分かれて審査します。低学年の作品には楽しい内容が多く,学級担任の先生方の丁寧な指導が伝わってきます。
高学年の作品の中には,怪我をしたルリカケス(天然記念物)を保護し,飼育していく様子を描いた作品もありました。しかし,天然記念物を飼育することは違法でないかについての議論が起こり,作品自体は特選に値するレベルであったものの結局選ばれなかったものもありました。また,家庭の中の様子を描いたほんのりする作品もありました。次の作品も審査員が大爆笑した離島のある学校の1年生の作品です。
迷子になりました
1年 〇〇 〇〇
初めての夏休み。ぼくはお父さんと約束していた動物園に行くことになりました。前の日,嬉しくてたまりません。持っていくものを準備しながら,
「フクロウとコウモリとワシとペンギンを一番見たいな。すごいだろうな」と色々考えると,もっともっと,ウキウキ元気になりました。
ぼくとお父さんと妹の三人で船で行くことになりました。船の中はお店があって,クーラーも効いていました。同じ鹿児島に行く友達もできました。
次の日の朝,鹿児島に着きました。病院に行ってホテルを探して,楽しみにしていた動物園に行きました。「平川動物園」と書いてある門をくぐると,ドキドキして歩くのが早くなりました。初めに見たのはキリンです。絵本で見るよりずっとずっと大きくて,優しい目をしていました。ぼくの背よりも高くて,全部本物だったのでびっくりしました。
ぼくがコアラに夢中になっているとき,お父さんたちはペンギンを見ていました。コアラをいっぱい見たので,他の動物を見ようとしたらお父さんたちがいません。キョロキョロ,周りをさがしてもいません。
「あれどこに行ったのかな。」と思って,はじめの入口のところに戻りました。するとバスが出ようとしていたので,
「お父さんたちは先にホテルに帰ったのかも」と慌ててバスに飛び乗りました。バスに乗るとお父さんたちはいないし,このバスがどこに行くのかわからないので,
「もしかして,ぼく迷子になったのかな」と思いました。ちんちん電車が見えたのでバスをおりました。2000円持っていたのに,運転手のおじちゃんは,
「お金はいらないよ。」と言ってくれました。すぐにタクシーが来たので,手を上げて乗りました。ぼくは運転手のおじちゃんに,
「おじちゃん,ぼく迷子になったから警察に連れて行ってね」とお願いしました。タクシーが警察に着いたので降りました。ぼくはお金を払うのを忘れてしまいました。警察の人が2人いたので,
「ぼく,迷子になりました。」と言うと,あと2人の警察の人が来ました。ジュースとお菓子を持ってきてくれて,ぼくの名前や電話番号を聞きました。警察の人はとても優しかったです。 しばらくしてお父さんが迎えに来てくれました。ぼくの頭をポンと叩いて笑っていました。もう迷子は嫌です。
※ この作文を審査員たちで読みまわし「この子は将来大物になるが…」と感心しきりでした。
※ 読みやすくするため習っていない漢字も使っています。