新採時代の怖い話 

新採時代の残業時間

 

 新採用時代,私は平均して夜10時頃まで学校に残り仕事をしていました。そのため,地元の先輩教師から「夜遅くまで電気がついているけど,何をしているの?」と尋ねられることがよくありました。若い頃は基本的な知識不足でとにかく要領が悪く,校務分掌事務の提案文の作成や教室清掃,宅習帳のペン入れ,翌日の授業準備や教材研究,さらに自分の研究教科や教育論文の作成,研究授業の準備などと結果的に長時間労働となっていました。 

 私の学級は2階にあり,道路から丸見えでした。そのため,夜の9時を過ぎると地域の方々から電話があったり,心配した保護者が教室まで上がってきたりすることもありました。その都度,「すぐ帰ります」とその場しのぎの返事をしていましたが,翌朝には校長先生から注意を受けることも少なくありませんでした。しかし,仕事が終わらないためどうしようもありませんでした。力不足から,教材研究をしないと子どもたちに教えることができなかったのです。そこで,教室の電気が漏れない1階奥の理科室で残業することもありました。

近くの商店の奥さんの話

 2年目に結婚しましたが,それでも帰宅は夜9時を過ぎることが多く,近所の商店のご主人から「新婚さんは早く帰りなさい」と直接注意を受けることもありました。それでも変わらず残業を続けていると,ある日,そのご主人の奥さんが訪ねてきてこう言いました。「先生,今さっきS子ちゃんが正門に一人で立っていたので,『寒いからうちでお茶でも飲んでいきなさい』と言ったら,急に校舎の方に歩き出したので,跡をつけてきたら下の階段でいなくなったのよ」と言うのです。そのS子さんは,PTA役員の娘さんで,ひと月ほど前に事故で亡くなった若い女性のことでした。

 ほどなくして奥さんが帰ろうとするので,急に怖くなり,「ちょっと待って,一緒に帰りましょう」と慌てて帰宅しました。それ以来,できるだけ早く帰るよう心掛け,19時頃には学校を出て自宅に仕事を持ち帰るようになりました。

 若い頃の私にとって,夜中に一人で学校にいることはやはり怖いものでした。後日,その奥さんにお会いした際,「最近は早く帰るようになったね」と笑顔で言われました。その後,別の方から,「先生に怖い話をしたら早く帰るようになったよ…」と聞かされ,地域の方々が本当に心配してくれていたことを改めて知りました。数年前,久しぶりにお会いしたら相変わらず明るく元気な方でした。地域の皆さんにご心配とご迷惑をおかけした新採の3年間でした。 

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