
桜吹雪
桜の花見は,心を躍らせる春の風物詩です。私が子どもの頃は,入学式前後に桜が一斉に咲いていましたが,現在は開花時期が早くなっているようです。学生時代,東京調布の公園で見た満開時の桜吹雪が今でも鮮やかに心に残っています。風に舞い散る桜の花びらは,一瞬で散り去る儚さを感じさせ,その美しさに息を呑みました。
天気予報で花見の計画を立てるものの,よく2〜3日後に雨が降ったり,突風で花が散ったりしたことがありました。それ以来できるだけ同じ場所に何度も足を運ぶようにしています。

・日置市
通勤途中に桜の木を見ていると,前日に満開であってもその次の日には風や雨で一気に花が散ることがあります。この儚さこそが桜の魅力であり,「桜に嵐」という言葉がぴったりあうのです。かつて紫原の桜吹雪は鹿児島市内でも名所として知られ,この季節だけは遠回りをしてよく通っていました。
桜が散り始めると「ああ,勿体ない」と惜しむ思いと,絶頂の美しさが徐々に失われていく姿は,私たちに生きることの儚さを改めて思い起こさせてくれます。開化する期間がもっと長いと,このような気持ちにはならないのかも知れません。

・桜の根元に咲いていたタンポポ
教員時代の桜
教員にとって年度末と年度始めは一番慌ただしく,花見をする時間は殆ど取ることができませんでした。車窓から見える桜ピンクはどちかと言うと,忙しさのイメージでした。転勤や引っ越しの準備,子どもたちの転校手続き,転任校での新年度準備,新年度の受け入れ,学級編成など,学校の一年で一番忙しい時期であり,とても桜を見る余裕がなかったのです。
転勤先で記憶に残っている歓迎会の一つが,学校の裏庭にあった大きな満開の桜の下での昼食会でした。花びらがいくつも入り込んで桜弁当の美味しさは今でも覚えています。新しい同僚や慣れない学校での,束の間のゆっくりした時間でした。

・伊佐市の忠元公園
桜の名所
教職時代は花を見る余裕などありませんでしたので,定年後にやりたいこととして,桜前線を追いながら北上し,全国を旅行することを想い描いていました。実際やってみると,自家用車での旅行は体力的にも大変で,岡山や四国までの桜の名所を訪れることが精一杯でした。
しかし,県外で初めて見る桜が織り成す美しい景色に出会うことができました。ここ数年は,県内や宮崎,熊本など名所を巡ることで,春の風情を感じています。桜が満開を迎えると,やはり日本人の心の中にある「原風景」や春の期待が形となったかのように思えるのも不思議なことです。

桜には多くの品種があり,ソメイヨシノの安定した美しさや,山桜のようにひっそり咲く花の味わいも魅力的です。桜以外にも,モクレンやユキヤナギ,ミモザなどそれぞれ同じ時期に咲く美しい樹木もあります。

・桜の山にひっそり咲くモクレン
今年も全国で桜の開花が報告され,桜前線は着実に北上していますが,昨年は地球温暖化の影響か,九州地方で桜の花が少なかったことが話題になりました。このような異常気象が桜の開花に影響を与えることを考えると,自然の変化に対する桜の優雅さが一層深く感じられます。

・横川の丸岡公園
桜並木を歩いていると,太陽の光と青空に透ける花の重なりがまるで絵画のように美しく感じられます。しかし,道端で一本だけポツンと咲いている花を見ると,心が引き寄せられます。小さな桜の存在が語りかけているようで,その強さに思わず足を止めてしまうのです。このように,桜の花が咲くことで,私たちは自然の中に存在する小さな美しさを感じ,人生の儚さとともに,毎年一度の出会いの喜びがひとしおに感じられるのです。
