熱田神宮を訪れて

 初めて熱田神宮を訪れました。鳥居をくぐった瞬間,静かな空気に包まれて,一歩一歩が歴史の中に足を踏み入れていくような感覚になりました。伊勢神宮や出雲大社にも通じる,どこか神聖で厳かな雰囲気が漂っています。ここには,三種の神器のひとつ「草薙剣」が祀られていて,天皇家とも深いご縁がある由緒正しい神宮です。ただ参拝するだけでなく,日本の歴史や神話に思いを馳せることができる,特別な場所でした。

熱田神宮と草薙剣の始まり

 案内板によると,熱田神宮は,「草薙の剣(くさなぎのつるぎ)」をお祀りしてから,今年で1900年を迎えたそうです。この神剣はもともと「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」と呼ばれており,神話の中で素戔嗚尊(スサノオノミコト)が出雲の国の川で,八つの頭を持つ大蛇「ヤマタノオロチ」を退治したとき,その尾の中から現れたことは神話でも有名です。

・熱田神宮説明ボードより

 剣はその後,天照大神に献上され,瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が降臨の際に,「三種の神器」の一つとして授けられました。それ以来,この剣はしばらく宮中にとどめ置かれていました。

 第10代・崇神天皇の時代,三種の神器のうち「八咫鏡(やさかにのまがたま)」と「草薙剣」が宮中を出て,奈良県桜井市の倭笠縫邑(やまとのかさぬいむら)に祀られました。その後,第11代・垂仁天皇の時代に,「八咫鏡」は伊勢神宮にお祀りされることとなりました。

三種の神器とは

 三種の神器とは「八咫鏡(伊勢神宮)草薙神剣(熱田神宮)八尺瓊勾玉(皇居)」をいい,これらは歴代天皇が皇位を継承するしるしとして,今日まで大切に受け継がれています。

草薙剣の名前の由来

 その後,第12代・景行天皇の皇子である日本武尊(ヤマトタケルノミコト)は,父より東国(近畿より東)の平定を命じられました。出発に先立って伊勢神宮を参拝し,倭姫命(やまとひめのみこと)から「天叢雲剣」と「火打石」を授かりました。

 その途中,尾張国(名古屋市緑区大高町)にある火上の里で,国造の乎止与命(オトヨノミコト)の館に立ち寄り,そこから東征へと向かいました。駿河国(静岡県)で狩りをしていたとき,敵の賊たちが野原に火を放ち,日本武尊を焼き殺そうとしました。

 そのとき,尊は剣で草を薙ぎ払って進み,火打石で「向かい火(反対側からの火)」を起こし,炎を利用して逆に賊たちを討ち取りました。この出来事をきっかけに,この剣は「草を薙いだ」ことから草薙剣と呼ばれるようになりました。そしてその場所は「焼津(静岡県焼津市)」と呼ばれるようになったのです。当時の東国とは静岡あたりまでだったのでしょうか。

熱田神宮の主な神様について

主祭神:熱田大神

相殿(ともにまつられている神様):天照大神・素戔嗚尊・日本武尊・宮簀媛命(みやすひめのみこと)・建稲種命(たけいなだねのみこと)

① 熱田大神とは?

 「熱田大神」とは,三種の神器の一つである「草薙の剣」に神霊を宿してまつられている,天照大神のことをいいます。天照大神は,日本の神々の中で最も古く,最も尊いご先祖の神様とされ,「日神(ひのかみ)」とも呼ばれています。この神様は,最初にこの世界に「神の道」を示し,人々に優しさや慈しみの心を授けたとされています。そして,日本の天皇のご先祖でもあり,日本の国民を一つにまとめる象徴的な存在です。

② 相殿の神々(五座の大神・五神さま)

 熱田神宮では,天照大神のほかに5柱の神様もおまつりされていて,「五座の大神」や「五神さま」と親しまれています。これらの神様は,草薙の剣と深いゆかりがあり,古くから多くの人々に信仰されてきました。

参道の花嫁行列~草薙の剣に誓う結婚式~

 結婚行列を数組見ることができました。参拝者も花嫁さんに見とれて,写真を撮っていました。新郎・新婦さんもとても幸せそうで微笑ましいでした。 

 パンフレットによると,熱田神宮での結婚式では,御神体にちなんだ「みつるぎの舞」の演舞が奉納されるそうです。美しい神楽の調べとともに舞われるその姿は,幻想的な光景で,新郎新婦はもちろん,参列した方々の心にも深く刻まれることでしょう。

 熱田神宮の結婚式は,他にはない厳かで清らかな雰囲気に包まれています。ご神体として祀られているのは,三種の神器のひとつとして有名な「草薙剣」です。その神剣に見守られながら,ふたりで未来を誓う瞬間には,言葉にできないほどの感動があります。「浮気したら斬られそう」なんて冗談を言う人もいるほど,神聖でピリッとした空気が流れています。

 式は「参進(さんしん)」という古式ゆかしい形で行われます。神職や巫女さんの先導のもと,新郎新婦と参列者が砂利道の参道をゆっくりと本殿へと進んでいました。神様に結婚の報告の後,「みつるぎの舞」が奉納され,神楽の音色と舞の美しさに思わずうっとりとする時間が流れるのでしょうね。

 そういえば,名古屋では「娘を三人持つと家がつぶれる」なんて言われることがあります。徳川家康のお膝元であるこの地では,徳川家に嫁ぐ娘のために豪華な結納品を持たせたのが名古屋式のはじまりともいわれていますが,実際には結婚式にかける費用は全国平均程度なのだそうです。

 最近ではコロナ禍の影響で,結婚式もよりコンパクトに,心のこもったものへと変わってきました。静かで清らかな空間の中でしっかりと誓いを立てられたことは,今も心に残る大切な思い出になります。末永くお幸せに!

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