耳原六地蔵塔について(その2)

耳原六地蔵塔の持物と銘文

(一)龕部の持物と印

 六地蔵の各道や名称については諸説があり,特定することは難しいですが,その一つの方法として,持物や印によって特定することができます。ただし,耳原六地蔵塔は廃仏毀釈の影響を受けており,像上部が激しく摩耗しているため,尊顔を含めた持物や背光の特定が難しい状況です。戦国期の山川・開聞地区の石仏は,同じ系統に属するものが多いと考えられますので,保存状態の良い小川六地蔵塔と比較することで,不明な点も比較的特定できると思われます。

(二)耳原六地蔵塔の印・持物について

 仏像の手の形や組み方は「印相」と呼ばれ,手に持っているものは「持物」と言います。これらだけで仏の種類やご利益が分かる場合もあります。特に密教においては,印相や持物は教理そのものを表す重要な意味を持ち,仏像の種類を見分ける際のポイントとなります。

 像の下部にある地蔵菩薩の乗る台座は「蓮華座」と呼ばれ,これは浄土に往生し,仏が住む世界が蓮華であることを示しています。また,持物としては,蓮華,錫杖,幢幡,経箱,柄香炉,三鈷杵(密教で重用される武器),宝珠,宝剣などがはっきりと判別でき,印相では「施無畏印」のみが確認できます。

 第五面の宝珠は,意のままに様々な願いをかなえる宝であり,願望を成就させる地蔵菩薩の持物とされ,現世利益を祈る対象となります。第四・第五面の施無畏印は,指をまっすぐ揃えて手を上げた形で,「全ての畏怖を除き,衆生に安心を与える」という意味を持ち,お釈迦様によく見られる印相です。第二面の幢幡は,煩悩を打ち破る布製の幡(旗印)で,軍旗が形を変えたものです。経箱は,経文を保管するための箱を指します。

(三)耳原六地蔵塔の各面の持物(想像図)

 尊顔および像上部の舟形光背の後光は損傷が激しく,特定することが困難です。不明確な部分については,画質を向上させた上で,郡内にある他の六地蔵塔の持物と比較しながら特定を進めました。

(四)搭柱の銘文について

 石塔は,その建立された時代ごとに異なる要請や意義を持っています。今回は,耳原の六地蔵塔をはじめ,室町期の六地蔵塔について調査することで,建立の趣旨や信仰の様子を伺い知ることが可能です。

 銘文については,「和紙に書いた文字を石材に貼り付け,タガネで仕上げていく」のが一般的ですが,山川石の場合,硬さが一定でないため,石の表面の硬軟を見極めながら直接文字を書き,それを刻んでいったようです。現存する山川石製の六地蔵塔や板碑等の碑文において,文字の大きさやバランス,間隔などを観察すると,石の表面を見ながら直接書かれていることが分かります。材質の特性上,直接石に文字を書き込むことで,文字に活気が生まれ,見る人を引きつける効果があるのです。

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