小学校４年生のとき，私は鹿児島市の小学校に転校しました。それまで通っていた地方の学校は「い組」「ろ組」「は組」の３クラスしかなかったのですが，新しい学校は７クラスもあり，児童数は以前の３倍以上の大きさでした。そのため，最初はとても緊張していました。
同じ班の仲間
授業や給食の時間には，4 人ずつの班で活動することが多く，私の班はＫ君とＭ子さんと私の３人の班でした。二人は転校してきたばかりの私を気遣ってくれて，学校や授業のことを色々と教えてくれたり，優しく接してくれたりしました。これは，そんな二人との思い出の話です。
※ 以前のブログでも書きましたが，この小学校は「文教地区」と言われる地域にあり，当時は上学年になると,毎年１割ほどの児童が地方から転入(母親と住んだり，下宿や親せき宅に住んだりと実態は様々…)してきていました。そのため，他の班にも転入生がいて，基本的に班単位で転入生の面倒を見ていたのです。
便所の話
転校してまだ2，3日しか経っていない頃のことです。学校のことはほとんど分からず，友達といえば同じ班のK君やM子さんぐらいしかいませんでした。その日は朝からお腹の調子が悪く，当時は一般家庭に冷蔵庫が普及していなかったため，食あたりも珍しいことではありませんでした。
１時間目の授業が終わる頃，どうにもお腹が痛くなり,急いで便所に駆け込みました。当時の便所は中庭にあり，木造で男女共用の簡易な造りでした。児童数が多く，休み時間になるといつも行列ができていたのを覚えています。
便所は低・中・高学年用に三棟に分かれており，男子の小便器と女子の便所が同じ棟にありました。男子用の大便所は女子便所の列の隣にわずか二つしかなく,女子が並んでいる横を通り抜けて入るのが恥ずかしかったため，物陰に隠れながらタイミングを見計らって便所に入っていました。
休み時間が終わる頃に用を済ませて教室に戻ると,教室には誰もいませんでした。時間割を確認すると「音楽」となっていたので，始業前にM子さんが教えてくれたリコーダーを手に北校舎の音楽室に急ぎました。
しかし、廊下の途中で偶然，体操服に着替えたK君に出会い，「もしかして音楽ではなく体育に変更になったのかな？」と思いました。慌てて「K君，体育はどこでやっているの？」と尋ねると,K君は怪訝な顔をしながら「校庭のプール側だよ」と教えてくれました。（当時，校庭は狭く，学級数も多かったため，3クラス以上が同時に校庭を使用していました。）私は急いで教室に戻り，体操服に着替えてから校庭へと急ぎました。
ようやく校庭に着くと,K君の姿が見えたので，彼の近くに並びました。転校して間もなかったため，先生も私の顔を見ても特に何も言いませんでした。すると，近くにいた女の子が体育服の学級番号を見て「どうしたの？ここは2組だよ」と教えてくれました。そのとき初めて，自分が違う学級に来てしまったことに気づきました。
慌てて担当の先生に「学級を間違えました」と伝えると,みんなが大笑い。急いで自分の教室に戻りました。当時は児童数が多く，特に年度初めは先生たちも全員の顔を覚えきれなかったため，音楽や体育といった専科の時間ではたまにある風景でした。
教室に戻る途中，K君のことが少し腹立たしく思えてきました。せっかく着替えたのに，また着替え直さなければならなかったからです。でも，K君がなぜ校庭にいたのかまでは深く考えませんでした。当時の専科の授業では,着替えや忘れ物については厳しく指導されており，一人でバタバタと着替えていると,だんだんと悲しい気持ちが込み上げてきました。
音楽室は北校舎の一番端にあり，その途中で職員室の前を通ります。私は廊下を急いで走っていたため，別の先生に呼び止められ，今度はお説教を受けました。時間が気になりそわそわしていると，その先生はさらに厳しく叱りつけてきました。
双子のK君
ようやく音楽教室に着くと,今度は音楽専科の先生に叱られてしまいました。それでも何とか班に合流することができ，ほっと一息。すると，パート練習をしているM子さんの隣に,なんとK君がいるのを見つけて驚きました。「K君，今さっき校庭にいたよね？」と尋ねると,K君は「何言ってるんだ，こいつ」という顔で私を見ました。
翌日，K君から「昨日，間違って校庭に行ったんだって？」と笑われましたが，「ああ，お前のせいでな…酷い目にあったぞ」と言いかけましたが，面倒くさくて生返事で返しました。
それから数日後，廊下で偶然，二人のK君が並んで話しているのを見かけ，ようやくK君が双子だったことに気づきました。その瞬間，私が学級を間違えた理由が分かったのです。二人を見比べても顔がまったく同じで，見分けがつきませんでした。それ以来，私は二人のK君と親友になり，家も近かったことからよく一緒に遊ぶようになりました。
