平家落人伝説の残る手打
甑島は,全国の僻地に多い「平家落人伝説の地」の中でも特筆される一つです。下甑島の「手打」の漢字表記は全国的にも珍しい地名で,当初は漠然と平家の落人伝説に由来しており,「源氏側の兵によって追われ,手討ちにされた平家の武将の伝説」が伝わり,後に地名としては不吉であるとの理由から,「手討ち」を避け,「手打」に変えたのだろうと考えていました。郷土誌などには,次のように記されています。
・ 手打診療所
手打の地名由来について
・ 手打という地名は,この地が平家の落人部落であることに由来しています。源平の合戦に敗れた平家の残党が,この下甑島に流れ着いたが,山ばかりの土地にがっかりしていました。島を周り,この地に広い土地が広がっていることが分かると,「ここは良いところだ」と手を打ったことから,手打という地名となったそうです。 ~郷土誌より~ |
(1) 地名由来の鉄則
713年の「好字二字令」以来,地名の由来を考える際,「漢字に惑わされない」ことが最も重要になりました。庶民の旅行が盛んになった江戸から明治期にかけて,地名は図絵や地図等で広く使われるようになりました。しかし,庶民の識字率は依然として低く,誰でも読みやすく覚えやすい簡単な漢字を使う必要がありました。当然,漢字には一つ一つ意味があります。そこに落とし穴があったのです。
藩が名勝図絵(観光パンフレット)等を作成する際,各地の地誌や由来書を収集しますが,そこでの地名が仮名或いは万葉仮名で書かれていることが多かったのです。今のように電話で直ぐに確認出来ない時代のこと。その地域にゆかりのない藩の役人が勝手に漢字を充てていくことが多かったようです。当然,充て字による独断的な由来や伝説が生まれることもあったのです。その中には,薩摩半島から奄美・沖縄に至る為朝伝説(為朝地名)の様に,藩役人が郷中教育を通して意図的に行っていたと言われるものもあります。
・手打(向)貝塚「弥生後期の貝塚」
(2) 鹿児島の地名について思うこと
「長い間,語り継がれてきた地名由来」は,地元の住民にとっては,これは信じるべき地名として広まり,その地域のアイデンティティにも大きな影響を与えているのです。また,住民は長い間,口伝・伝聞として伝わる由来を聞いて誇りとしています。そのため外部者が軽率に由来を語ると,それが失礼にあたることになるのです。しかし,鹿児島は長い間,島津氏の統治が続き,他県と比べて歴史や伝説等の評価や検証が十分でないように感じています。例えば,島津氏にとって都合の悪い「在郷士や郷士格」の支配,或いは劣悪な農民の実態など「思考停止」の部分があります。そこで,地元の思いを考慮しつつ,自説を併記することでお許しいただきたいと思います。
・ 手打の田畑と急傾斜地(中腹には廃校になった海陽中があり,この辺りは山水がよくでる所で,田に水を引いていたそうです。)
上甑島の浦内小学校について
甑島は高い山が海岸まで落ち込み,入り江が多く,平地が少ない地域です。上甑島に廃校になった「浦内(うらうち)小学校」がありました。この地域の地形は,湾が深く入り込んだ甑島特有の地形になっています。地名に多い「内(うち)」という字は,内側ではなく,むしろ沿うという意味合いを持ちます。例えば,川内や河内は川に沿った土地(川田)を指し,山内や浜内などと同様に浦内は,「入江・湾に沿った土地(山田)」(米がとれない漁村)ということになります。「全国で最も年貢が高い」薩摩藩に対して,この浦内地区に高い年貢は無理ですよと,アピールしたかったのかもしれません。
・ 閉校記念碑
手打の地名についての一考察
甑島は山が海岸近くまで険しく入り込み,平地が少ないところです。「手内」も同様の地形を有しており,「中腹の山水を求め山手に沿って開墾していった場所」である可能性も考えられます。また,漢字の「手」には「右手や下手」に向かって方向性を指す意味もあります。つまり,海からやってきた人たちが「山の斜面に沿って開墾していった土地」と考えるのが自然ではないでしょうか。手内海岸に立つと,周りが山で囲まれ,生きるために開墾が必要だったのです。この地の先人たちは山側に向かって土地を求めて,手内「山手に沿(内)った山田或いは畑」を広げて行った?と考えます。
・ 山に囲まれた手打海岸
以上はあくまで一つの説として捉えていただければ幸いです。他にも異なる漢字の解釈が存在します。例えば,「錣(て)・駘(て)・堆(て)・土(て)」などが当てはめられ,「のどかで広々としたさま」「後方を山で覆った土地」「高く積み重ねた土地」「草木が生え人が住む領地」などの解釈も可能です。漢字の組み合わせにより,様々な解釈をすることができるのです。
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