「メイド・イン・ジャパン」について《R6》2月4号

学生時代はまったブリティッシュ・ロック

 学生時代,私はブリティッシュ・ロック,特にプログレッシブ・ロックに夢中になっていました。当時,先進的で前衛的な音楽ジャンルとしてシンセサイザーなどを駆使したサウンドが流行しており,その中でもピンク・フロイドが私の一押しでした。一方,私の友人はイエスの熱狂的なファンで,私たちが共通に好きであったビートルズやキング・クリムゾン以外の音楽的趣味は合いませんでした。

ピンク・フロイドの名盤

 ピンク・フロイドは1970年代から、次々と名作を世に送り出す世界的に有名なバンドでした。「おせっかい」や「原子心母」「ザ・ウォール」「狂気」など,彼らの名盤に夢中になって聴き込みました。主旋律や楽器パート全てをマスターするほどの熱心さで,彼らの音楽に没頭していました。ピンク・フロイドの作風にはクラシック的な要素が多く取り入れられており,ロックと融合した刺激的なサウンドが特徴でした。学生時代,音楽に夢中になる時間は貴重な思い出です。今でも聴き返すと当時の思い出がよみがえります。

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・ アルバム「原子心母」

ピンク・フロイドのトリビュートバンドの「原子心母」

 YouTubeでピンク・フロイドのトリビュートバンドが「原子心母」を演奏している動画を見て,驚きました。日本人のミュージシャンが,本家を凌駕するほどの素晴らしい演奏ができることに感動すら覚えました。「日本人或いは日本語でのロックは不可能である」とまで言われていた60年代には考えられないほどの演奏レベルでした。バンドの演奏はもちろん素晴らしかったですが,特にソプラノ,アルト,バスなどの合唱パートには完全に引き込まれる感覚がありました。その臨場感と表現力には,ただただ感動しました。

ソプラノ歌手・ラブリーレイナ

 そのソプラノ歌手Lovely Reinaさんについて調べたところ,昨年急性心不全で亡くなっていたことを知り,愕然としました。彼女のコンサートに行ったり,CDを聴いたりする機会が失われてしまったことがとても残念でなりません。

・ラブリーレイナさん YouTubeより

 学生時代からクラッシックのような「原子心母」の合唱パートが大好きで,そこばかり繰り返し聴いていたので,そのパートをフィーチャーした彼女のソプラノは特に印象に残るものです。もっと彼女の演奏を聴きたかったのに,その存在を知ったときにはもう叶わなくなっていたことが悔やまれます。

 日本の音楽シーンは,なぜか彼女のように実力のあるアーティストが十分に評価されないと感じています。テレビやラジオといった公共のメディアは,大手プロダクションや人気ミュージシャンだけを放送するだけでなく,若い才能を発掘し育てることにも時間を割くべきだと思います。かつてのように,日本の魅力や新しい才能を発見する番組をもっと作ってほしいと思います。彼女がもっと早く注目されていれば,その運命も変わっていたはずです。見た目ではなく音楽性や才能を重視し,優れたミュージシャンを世界に紹介するような機会を増やしてほしいと切に願います。

トラフィックの名曲

 ピンク・フロイドに続き,私はトラフィックというバンドに夢中になりました。スティーヴ・ウィンウッドやデイヴ・メイソンなど,才能溢れるメンバーが在籍しており,彼らのメロディアスな楽曲に何度も楽しませてもらいました。お金がない学生時代,アルバイトをしながら全てのアルバムを揃えましたが,その中でも特に『ミスター・ファンタジー』をよく聴いていました。

 このアルバムのA面の2曲目、「バークシャー・ポピー」という曲が好きでした。その歌詞に「ウェイティング・ザ・クリスマス・ザット・メイド・イン・ジャパン」というフレーズがあります。この「メイド・イン・ジャパン」という響きが誇らしく,とても心地よかったのを覚えています。

 しかし,後で調べてみると、「あの日本製のクリスマスを待ち望んでいる…」様な意味だったと思います。1960年代の日本製品はまだ品質が悪く,粗悪な製品の代名詞的な意味があったことを知り,ショックを受けました。つまり,「日本製のあんな粗悪なクリスマスを順番待ちしている愚か者」というような意味合いだったのでしょう。

メイドインジャパンは粗悪品の代名詞

 昨年、日本のGDP(国内総生産)はドイツに抜かれ,世界第4位に後退しました。もちろん大きな要因としてデフレや円安等も考えられますが,1968年(昭和43年)には西ドイツを抜いて世界第2位になったため,ドイツにとっては55年ぶりの雪辱を果たしたことになります。戦後,がむしゃらに走ってきた日本経済,この後どうなるのでしょうね。同様の経験をしたのがかつてのイギリス(大英帝国)なのです。

 昭和30年代まで,日本製品は現在の「made in ○○」と同様に,模倣品やコピー品、粗悪品として扱われていました。1960年(昭和35年)のイギリスの新聞には,「メイドインジャパンは粗悪品の代名詞」として,日本製品が世界で最も粗悪であるという調査結果が掲載されていたそうです。トラフィックのこの曲の歌詞は,おそらくこうした記事からインスパイアーされたものなのでしょう。

 職人技の品質の高い「made in japan」がいつまでも続きますように

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