鹿児島にルーツがある直木賞作家,ねじめ正一

 かつて,ねじめ正一著の児童書「さんぽうた」(ポプラ社)をいただいたことがあります。この本の編集者は,鹿児島出身で多くの翻訳書を手掛けている久保陽子さんです。

さんぽうた

 ところで,ねじめ正一氏は小説「高円寺純情商店街」で直木賞を受賞し,詩集やエッセイなど数多くの著作を発表している小説家であり詩人です。本名は禰寝正一といい,鹿児島県の根占町がルーツで幻の宰相,小松帯刀に繋がる名門のようです。

 「高円寺純情商店街」は,昭和30年代の高円寺銀座商店街を舞台にした作品で,懐かしい思い出がよみがえりました。私は昭和50年代の学生時代,杉並区松ノ木に住んでいて地下鉄新高円寺駅を利用していたため,この小説を読むと当時を思い出し懐かしさを感じました。普段は地下鉄側の「高円寺商店街」をよく利用していましたが,友人が遊びに来た時は「高円寺銀座商店街」まで足を延ばしてジャズ喫茶や居酒屋に行くこともありました。狭い路地に小さな店が並ぶ街並みには,情緒があり心が安らぎました。

 「さんぽうた」は,ねじめくんという男の子が,いつも鉛筆とノートを持って学校帰りに散歩しながら思ったことを詩に書き留めていくストーリーです。さっそく低学年の子どもたちに読み聞かせをしたとき,一番人気があり,嬉しそうに口ずさんでいた詩を一つ紹介します。

・たんぽぽ

たんぽぽさん たんぽぽさん 
のはらで わたげを とばします 
よるは つかれて ねむります  
たんぽぽさん たんぽぽさん 
のはらで やきゅうを みています 
ボールよ!とんでこい と まってます 
たんぽぽさん たんぽぽさん 
のはらで なのはなに こいしています 
きいろくなって てれてます 
たんぽぽさん たんぽぽさん 
のはらで いっぱい さいてます 
たのしく こどもに つまれています 

翻訳者の久保陽子さん

 久保陽子さんは,鹿児島県出身で,鶴丸高校から東京大学文学部英文科を卒業されました。出版社に勤務し,入社後初めて編集者として,詩人のねじめ正一さんに「子どもたちが等身大の自分の心を感じられる詩集を書いて欲しい」と企画を依頼し,出版した本が『さんぽうた』だそうです。また,全国の多くの小学校図書室に所蔵され子どもたちに人気の『リトルプリンセス』や『リトルジーニー』シリーズなどを手掛けられました。

 退職後は鹿児島に帰郷され,本格的に翻訳者としての活動を始められているようです。訳書には,『ハートウッドホテル』シリーズ,『クローバーと魔法動物』シリーズ(童心社),『明日のランチはきみと』『うちゅうじんはいない!?』(フレーベル館),『5000キロ逃げてきたアーメット』(学研プラス),『クローバーと魔法動物 魔法より大切なもの』(童心社)など多くの訳書があります。

・「ハートウッドホテル」シリーズ

・「5000キロ逃げてきたアーメット」(学研プラス) 

子どもたちに人気の「リトルジー二ー」シリーズ

 かつて勤務していた学校では,図書室の新刊購入予算が年間40~50万円程度でした。時には,PTAや地域の方々から寄付をいただくこともあり,そうした資金は主に親子読書用の絵本購入に充てていました。その学校には空き教室にPTA図書室があり,保護者の方が自由に借りていました。

 また,新しい図書の選定は,国語主任や司書補の先生たちが協議し,図書の貸し出し状況や子どもたちの希望等を参考にして決めていました。私が担当していたときは,主に冒険・探偵シリーズの翻訳物のリクエストが多かったように記憶しています。学年によって人気のジャンルは異なりますが,物語や冒険もの,動物もの,さらには歴史的偉人や伝記などが好まれていたようです。中でも,「リトル・ジーニー」は常に希望図書の上位に挙げられていました。 

PTA図書室

 PTA図書室は,PTA研修部で「読み聞かせ」活動をしていたお母さんたちが中心となり,各家庭で愛読されている本を紹介し合おうという呼びかけから始まりました。最初は家庭から持ち寄った書籍を並べるだけでしたが,次第に地域からの寄贈やPTA予算等も加わり,蔵書が充実し活動が広がっていきました。数名のお母さんたちの発案によるこの取り組みは,地域全体に広がり,初めて子育てをするお母さんたちにとっての交流の場としても,PTA図書室が重要な役割を果たしていきました。
 また,PTA図書室は,単なる本の貸し出しに留まらず,家庭や地域での子育てに関する「研究と修養」の場として機能していました。親同士が情報を共有し,互いに学びを深めていく姿がそこにはあったと思います。
 ある年,わたしはPTA研修部の講師として,椋鳩十の「母と子の20分間読書」運動についてお話ししました。若い頃,椋鳩十先生の講演会で「この運動は本来,子どもが台所に立つ母親に本を読んであげるものだった」ということを聞いた経験をもとに,親が主体となっている現在の「読み聞かせ」活動について触れ,子どもが主体的に読む場を家庭でつくる必要性についてもお話ししました。親子での読書は,家族の絆を深め,子ども自身の読書力や表現力を育む貴重な機会となっていくのです。
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