北原白秋「この道」

 一度は行ってみたかった柳川の北原白秋記念館を訪れました。北原白秋といえば,『あめふり』や『からたちの花』など,誰もが一度は耳にしたことのある数々の作品を残している詩人であり童謡作家です。その中でも私が一番好きな童謡が『この道』です。

 

音楽で習った曲

 私が小学校高学年の時の話です。音楽の授業で,北原白秋(山田耕筰作曲)の童謡『この道』を習いました。音楽専科の先生が大きな紙に書かれた歌詞を読みながら,その内容について丁寧に説明してくださったのですが,男子の数名がくすくすと笑いだしました。同級生に北道君という名前の子がいたからです。北道君は下を向いていましたが,男子はお構いなしに,「来た道」のフレーズだけ大きな声で歌っていました。

 私は北道君と帰り道が同じだったため,よく一緒に帰っていました。それからというもの,帰り道では『この道はいつも北道,ああ一緒だよ~♪』と替え歌をふざけながら歌うようになったのです。後の部分は「宿題忘れ~また怒られた~♬」など,その日の気分で適当に変えて歌っていましたが,しつこく歌いすぎて喧嘩になることもありました。その後クラスも別々になり,自然と疎遠になりましたが,いつしかこの詩だけは心に残り,ふとした時に口ずさむようになりました。

 子どもたちが口ずさむ歌には,学校で習ったり,テレビやラジオで流行している曲が多いようです。夕焼けを見ると『夕焼け小焼け』を口ずさむように,『この道』も自然とわたしの心に響く童謡になりました。時折,小路を歩いていると,つい口ずさんでいることがあります。『この道』は,日本の名曲百選にも選ばれた童謡の名曲です。他にも白秋の作品『あめふり』『からたちの花』『ゆりかごのうた』の3曲が名曲百選に選ばれています。

この道(北原白秋)

この道はいつか来た道,ああ,そうだよ,あかしやの花が咲いてる。
あの丘はいつか見た丘,ああ,そうだよ,ほら,白い時計台だよ。
この道はいつか来た道,ああ,そうだよ,お母さまと馬車で行ったよ
あの雲はいつか見た雲,ああ,そうだよ,山査子の枝も垂れてる。

※ 北原白秋生家の隣にビートルズのアビーロードを発見。観光人力車の店のようでした。柳川の水路探索に良さそうですね。

銘酒「潮」

 北原白秋記念館で,白秋の生い立ちや実家の造り酒屋,そして柳川藩の御用達の銘酒「潮」について話を伺うことができました。明治34年の大火で酒倉や新酒,古酒が焼失し,生家は没落したそうです。その後再建され,「五足の靴」の与謝野鉄幹,白秋,吉井勇,木下杢太郎,平野万里らが生家を訪れ,この酒を酌み交わしながら歌を詠み合ったといいます。一度は途絶えた「潮」でしたが,白秋没後60年を経て復刻されたそうです。とてもまろやかで美味しい酒でした。

鹿児島を旅した与謝野夫妻

 それにしても与謝野鉄幹・晶子夫婦は,全国各地を旅して歌を詠み作品を残していますね。鹿児島だけでも霧島,頴娃,薩摩川内市などに夫妻の句が残っています。明治の時代には鉄道や車など交通網が整備され,旅行中の体験や見聞などを書き綴った紀行文や随筆が流行ったのも一つの理由のようです。薩摩川内市出身で「改造社」の社長・山本實彦と親交があった夫妻は,昭和4年7月から8月にかけての二週間,彼の招きで鹿児島を訪問しました。

 滞在中,霧島,指宿,頴娃,市比野などの景勝地や温泉を巡り,講演会も開催。その際の作品をまとめた歌集『霧島の歌』にて発表しています。

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