白鳥山登山と白鳥神社

 霧島火山群の中心にあたるえびの高原は,韓国岳や白鳥山の裾野に広がる美しい高原です。先日,白鳥山に登りました。この山は私が最も多く訪れている山で,登山口の駐車場がすでに標高1200メートル近くあり,韓国岳も500メートルほどで登れるなど登山ルートの選択肢も豊富です。その日の気分によって韓国岳や池巡りコース,甑岳,えびの岳,大浪池など様々なルートを選べます。また,四季折々に咲く高原植物も魅力の一つです。

・白鳥山からの韓国岳の眺め

登山の楽しみ

 登山では,自然の中で見知らぬ人とも同じ体験を通じて自然と会話が生まれ,思いがけない繋がりや情報交換ができることが大きな魅力です。しかしコロナ禍では,通りすがりに「こんにちは」と声をかけることさえためらわれ,こちらから挨拶できないこともありました。最近は改善されつつありますが,本当に残念なことでした。

 定年後は人と話す機会が減っているため,ちょっとした交流が楽しみでもあります。特に山頂では達成感とともにお弁当を広げ,同じ山好きの方々と会話を楽しむひとときが何より貴重でした。そんな時間が少しずつでも以前のように戻ってくることを願っています。

・野鳥の鳴き声が響く整備された林道

白鳥山の登山

 この白鳥山は手軽に登れ,美しい景色が楽しめるので,これまで何十回も登っています。時には,同じ時間帯に登る地元の登山者と顔を合わせ挨拶することもあり,親しく会話ができるのです。

 ある日,以前にも二,三度この山で会った地元の高齢のご夫婦とお話しする機会がありました。独特なリュックと登山帽で直ぐに分かりました。その方は,若い頃から登山が好きで,全国の名山をほとんど踏破されたそうです。

 話の流れで,私は「白鳥山を周回するとき,どちら回りで登られますか?」と尋ねてみました。すると,その方は「必ず反時計回りで登る」と教えてくれました。理由は陸上競技と同じ「人間の左回りの法則」に従う方が自然に動けるからだそうです。

・右回り最後の石段登山道

 確かに白鳥山の周回コースでは,右回りの場合,最後に急な下りの石段の坂が待っており,年齢的にも危険が伴います。しかし,私の場合ほとんど右回りで登っています。大きな理由はその日の体調によって途中で引き返しやすいからです。特に北展望台で折り返すことが多く,緩やかな登山道で気持ちよく下山できるためです。

・白鳥神社のヤマトタケル像

白鳥山の由緒について

 白鳥神社の由来記によると,平安時代後期に性空上人が白鳥山山頂の六観音堂で法華経を唱えていたところ,一人の老人が現れ「我はヤマトタケルなり。この山に住み続けてきたので,私のために神社を設けよ」と告げ,白鳥の姿になって飛び去ったと伝えられています。これにより,ヤマトタケルノミコトが祭神として祀られることとなったそうです。日本神話にまつわる神社の由来には,こうした話がしばしば見られます。

・白鳥権現社(満足寺)

 また,白鳥神社から3キロほど下ると「白鳥」という集落や,白鳥川という川もあります。この地域が白鳥山や白鳥神社と共存してきたことが分かります。白鳥川は川内川の支流で,えびの高原の分水嶺を源流とし,白紫池や六観音御池,不動池,甑岳の池塘部分などがその流れの始まりのようです。

白鳥山の地名について

 地名には,「白」「黒」「赤」「青」といった色の付く地名が多く,その由来は色とは関係のないことが多く知られています。白鳥という名前は美しく,白鳥や白鷺を連想させますが,地形的には「尻(シリ)取り(トリ)」が転訛して「白鳥」となった地名も全国には存在しています。東北地方の「名取」は津波災害によってえぐり取られた地域です。白鳥山の裾野も火山活動により削られ,白紫池が火口湖として誕生している歴史もあるのです。

・三国名勝図絵「六観音池と虚國岳」

 なお,江戸時代の『三国名勝図絵』には韓国岳が「虚國岳」と記されています。このまま解釈すると,「空になった国見岳」「半ば崩壊した国の最高峰」のような意味が含まれているのかもしれません。さらに,白紫池も「白子池」と記されています。白鳥山も地名学的に見ると,「南側の尾根が白紫池の噴火により削られた山」として「尻取り山」から転じた可能性も考えられます。先人が教訓として残した災害地名であった可能性も考えておくべきだと思います。この手の話をすると,よく古事記や日本書紀に書かれているからと耳にすることがありますが,神話自体上記と同様な伝説を伝えている可能性もあるのです。まあ,「古事記・日本書紀が歴史そのものだ」と言われ,いつも話は終わるのですが…。かつて私が古文書を調べた範囲で,一部の「薩摩の為朝伝説」などがその地名の漢字表記から役人が由来を創作したケースも見受けられました。

 ところで,白鳥神社や白鳥山は,ヤマトタケルノミコトを祭神として祀る神社の一つで,全国に多く存在しています。ヤマトタケルは日本神話に登場する英雄で,大和朝廷のために尽力したとされます。彼の魂が白鳥となって飛び立ったという伝説から,平家をはじめ歴史上の武将たちにも厚く信仰されてきました。

・ 与謝野鉄幹・晶子の霧島白鳥温泉下湯の歌碑

 「きりしまの しら鳥の山 青空を 木間に置きて しづくするかな(鉄幹)

 「霧嶋の 白鳥の山 しら雲を つばさとすれど 地を捨てぬかな(晶子)

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