高隈山で出会った若者たち(その1)

 登山をしていると,多くの人と出会い,交流する機会があります。大自然の中で体を動かし,頂上での美しい景色を眺める達成感は特別なもので,心に深く刻まれる時間です。さらに,出会いを通じて他者の人生に触れることで,自分自身や夫婦としての生き方を見つめ直すきっかけにもなります。

福岡の登山青年

 2年前,御岳直下のテレビ塔側登山口の駐車場から山道を歩き,妻岳から平岳を経由して横岳で休憩していたときのことです。福岡から来た若い登山者と出会いました。彼は高隈連山を御岳から小箆柄岳大箆柄岳へ縦走し,一度下山してから刀剣山に登り,さらに白山横岳平岳と進んでいるところでした。そして残る妻岳と御岳も一日で踏破しようとしていたのです。その挑戦は,まるで「グレートトラバース3」の田中陽希さんの「高隈山系の登山」を思い出させるもので,彼の速いペースに驚きました。

青年の悩み 

 会話の中で,彼の人となりや家庭事情についても触れました。最近離婚したばかりだという彼は,「登山するときは必ず事前に相談していたのに,何が不満だったのか分からない」と語り,自分なりに離婚に至った原因を振り返っていました。その話題をきっかけに,単なる登山談義にとどまらず,人生観や結婚観を語り合う時間になったのです。

 結婚生活や家庭の状況は,年代や経験,時間の経過とともに変化していきます。子育てや仕事,生活環境の変化により,当初共有していた趣味や価値観がずれていくことも珍しくありません。彼は「仕事で疲れて安らぎを求めていたのに,妻は気づいてくれなかった」とも語ってくれました。そこには,お互いが抱えていた言葉にできない期待や思い込みがあったのかもしれません。

結婚観 

 「プロの登山家や冒険家のように何年も家に帰らない人には,お互いの生き方や結婚観も異なるのだろうね」と私が言うと,彼は「もっと夫婦で一緒に楽しめれば良かった」と返してきました。彼の妻も若い頃は一緒に山を登っていたそうで,「理解してくれていると思っていた」とのことでした。しかし,結婚生活は子どもが生まれたり,仕事との関係で状況が大きく変わったりすることも多いものです。その都度お互いの考え方を出し合うべきだったのかもしれません。 

定年後の楽しみ

 最後に,夫婦の人生のステージによって楽しみ方が異なることについて話しました。「私たちのように子育てや介護を終え,残りの健康な10年ほどの時間を夫婦で旅行や登山に楽しむ考え方は,若い人たちとは違うかもしれないね」と言い,人生の後半における趣味や楽しみを共有する大切さを語りました。

 登山をしていると,いろいろな方と出会いがあります。大自然の中だからこそ心に響くものがあります。何気ない会話から得られるふとした気づきや学びは,人生を深く考えさせてくれる,かけがえのない時間であると感じます。

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