先週,いちき串木野市にあるジャズ喫茶「パラゴン」を訪れました。店名のとおり,あの「パラゴン」が壁前面におもむろに置かれて(鎮座),柔らかい音を響かせていました。

私は学生時代,東京で喫茶店巡りをしていた時期があります。特によく通ったのは,新宿や下北沢,渋谷のジャズ喫茶で,JBLの4343やパラゴンなど,本格的なスピーカーを備えた店が多いでした。

・JBLの4343
あの頃のジャズ喫茶に通う学生は,コーヒーを一杯で,1〜2時間は粘っていました。(ジャズ喫茶が経営難で少なくなるはずです)ただし,店内で物音を立てると,常連客やマスターの鋭い視線が飛んできたものです。今思えば,それも含めてジャズ喫茶の「作法」だったのかもしれません。
コーヒーの香り,煙草の煙,そしてスピーカーから流れるジャズの音色…。あの頃の私の青春の想い出です。

・JBLのパラゴン
串木野の「パラゴン」では,日曜の夜にフルボリュームでジャズを聴かせてくれるそうです。残念ながら自宅から遠いので行けませんが,一度は「フルボリュームのパラゴン」を聴いて,学生時代の感動をもう一度味わってみたいと思っています。
中古のオーディオやレコード
昭和50年代の学生時代,中央本線の御茶ノ水駅(水橋口)から神保町方面へ向かう途中で,何軒かのオーディオの中古店がありました。上京して一番驚いたのが,鹿児島には無かったレコードや楽器,オーディオなどの中古屋が多かったことです。

・国鉄「御茶ノ水駅」
当時地方には,中古のレコードやオーディオ機器の専門店は見かけることがありませんでした。しかし,東京には一つの中古街が形成され,「音楽の町」のような雰囲気を漂わせていて,その光景はとても新鮮でした。

・神保町の古本屋街
また,その先の神保町の古本屋街に足を踏み入れると,ジャズやロックなどの音楽専門書はもちろん,大学の履修試験対策本や過去問題集まで所狭しと何でも揃っており「探せば何でも見つかる」魔法の空間でした。

当時私は,プログレッシブ・ロックやジャズにハマっていて,名盤と呼ばれるレコードが半額以下の値段で手に入るのです。貧乏学生だった私にとっては非常に有難い所でした。
また,友人に誘われてライブハウスでジャズの生演奏を聴きにいきました。その時の内臓に響く低温の迫力に酔いしれました。
そのうち,「自分の部屋のステレオでもっといい音で聴きたい」という思いが強くなり,私はオーディオの専門書を読み漁るようになりました。私は,ますますオーディオの世界にのめり込んでいったのです。
いい音は入り口と出口で決まる
そのころ,高校時代からの友人に,鹿児島市内の老舗料亭や衣料品店などを営む会社の次男坊がいました。学生の身でありながら,横浜市内の一軒家で一人暮らしをしていたのです。しかも,毎日近所からお手伝いさんが来て,食事の支度から掃除,洗濯までしてくれるというのです。
何度か遊びに行ったことがありますが,中でも印象に残っているのは,奥の部屋に本格的なオーディオセットが置かれていました。JBLのスピーカーや本格的なアンプ類,一目見て高級そうな機材がずらりと並んでいました。そこで彼が聴かせてくれたのが,ジョン・コルトレーンのライブ盤でした。
目を閉じると,まるでライブ会場にいるような臨場感がありました。実際の演奏がその場で繰り広げられているようで,隣の席の観客が拍手をする息遣いが感じられるほどでした。オーディオひとつで,ここまで音の響きが変わるのかと衝撃を受けました。自分の部屋で聴いていた同じレコードなのに,トランペットが二台に増えていたのです(性能のいいアンプが音を拾っていただけでした)。

こんな凄いオーディオセットがあるのに,彼は「次はパラゴンを買うつもりだ」と言うのです。JBLの名機「PARAGON」といえば,当時スピーカーだけで300万円もすると聞き,私はただ驚くばかりでした。「よし,俺も就職したら買うぞと」と彼に言うと,「お前の部屋に置いたら床が抜けるよ」と大笑いするのです。実際,JBL PARAGONは幅が263cm,重さが約320kgもある大型スピーカーで,「そもそも私のアパートの玄関から入らない」ことが分かり,完全に打ちのめされました。
その後,彼からはオーディオに関するさまざまな知識を教わりました。その中でも印象に残っているアドバイスが,「入り口と出口で決まる」という話です。つまり,レコード本来の音をしっかり引き出すには,まず「入り口」であるカートリッジ(レコード針)と,「出口」であるスピーカーが肝心なのだというのです。

・サンスイ・アンプ「AU-D607」
そして,そのスピーカーの性能を最大限に発揮させるためには,アンプなどの周辺機器が必要であると言われ,オーディオの世界は実に奥が深いということを思い知らされました。

当時はまだオーディオの知識も乏しかったのですが,まずは彼が使っていた「シュアーのタイプⅣ」のカートリッジと,手が届くJBLのスピーカーを目標にすることにしました。