M子さんの話

 前回「親友K君の想い出」で,転校で不安なわたしに優しくしてくれたK君の話をしましたが,今回はM子さんの話です。

 M子さんは積極的に話すタイプではなく,どちらかといえば物静かな女の子でしたが,時折大きな声で笑ったり,面白いことを言ったりする一面もありました。双子のK君と同様に,いろいろなことを教えてくれ,不慣れな私にいつも優しく接してくれました。

 転校して間もない頃の国語の授業中,担任の先生に初めて当てられました。先生は私の緊張をほぐそうとしてくれたのでしょう。しかし,簡単な質問だったのに緊張のあまり「分かりません」と答えてしまい,着席した私は顔を赤らめて下を向いていました。

変顔で首振り

 すると,前の席にいたM子さんがトントンと私の机を軽く叩きました。「何だろう?」と顔を上げると,M子さんは教科書で顔を隠しながら,私の方を向いて「寄り目」をし,ピエロのように首を左右に振り始めたのです。(ダンスで「首のアイソレーション」と言うそうです)。その姿があまりにも滑稽で,思わず笑ってしまい,緊張が少し和らぎました。

 その後,休み時間にM子さんが「首振り」のやり方を特訓してくれるなど,次第に学級が楽しくなってきました。やがて,皆の前で首を振りながら変顔を披露できるまでになり,自然とクラスにも溶け込んでいきました。(教員になってからは,子どもたちの前でよく披露していました)。

 M子さんの家はK君の家の近くで,私の帰り道の途中でもあり,何度か遊びに行ったこともありました。しかし,1学期の終わりにM子さんは転校していき,右も左もわからない私に親切にしてくれた友人だったので,とても寂しく感じました。後で聞いたところ,M子さんのお父さんが事業に失敗したことが転校の理由だったようです。

M子さんとの再会

 4年の月日が流れ中学2年の時,M子さんとまた同じクラスになりましたが,最初は全く気づきませんでした。2~3日過ぎた頃,彼女の方から声をかけてくれましたが,彼女の顔は青白く,全体的に暗い表情で,小学校時代の面影はほとんどありませんでした。久しぶりの再会で嬉しさを感じるも,その変わりようが気になりました。

 二人で懐かしく話している様子を見ていた友人が「お前,あいつと知り合いか?」と聞かれ,「あいつは貧乏で,いじめられているぞ」と告げられましたが関係ありません。M子さんの家は川沿いの小さなアパートで,私は何度か彼女を誘い,一緒に川沿いの緑地帯で遊びました。M子さんは学校では見せない嬉しそうな表情で小学校の時のように「キャッキャ」と笑っていました。 

 「あいつに関わると女子に睨まれるぞ」と忠告もされましたが,私にとっては,小学校時代に親切にしてくれた大切な友人でしたので,気にせずそれからも一緒に川で遊びました。

 しかし,その後しばらくすると,M子さんは学校を休むようになりました。いじめが原因かと心配し,彼女の家の近くまで行きましたが,中には入りませんでした。

 翌朝,担任の先生からM子さんが突然亡くなったことを聞きました。頭を殴られたような衝撃で言葉が出ませんでした。女子の何人かが泣いており,一瞬いじめが原因ではないかと頭をよぎりましたが,盲腸で亡くなったとのことでした。「盲腸ごときで人が死ぬのか?」と思いましたが,先生によると盲腸を放置していたため腹膜炎を起こしていたそうです。

 「家が貧しく,病院に行けなかったのだろう」と男子が話していました。その瞬間,私は初めて頭の中を走馬灯のようにこれまで遊んだときのM子さんの笑顔が次々と浮かび,頭から離れませんでした。あの時,家を訪ねて行けばよかったと,強い後悔が残ったことを今でも覚えています。

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