異論・反論~議論・討論②「教員の時間外勤務」

教員の時間外勤務

 教員は,法令により原則として勤務時間(8:15~17:00)外の勤務を命じることが禁じられています。そのため,管理職が「今晩,臨時の校区役員会があるので残ってほしい」と指示することはできません。法的には教員が自主的に参加していることで,例えその帰り道に疲労により不慮の事故があっても当然補償されないのです。労基法には集中力や疲労度合いを考えられて細かな決まり事があるのです。新採2年目に集団宿泊学習が終わった日に緊急のPTA役員会が夜遅くまであり,疲労困憊して自宅に帰ったことがありました。

 小学校で残業が認められるのは,集団宿泊学習修学旅行(学校行事)や子どもが行方不明になったなど緊急の対応を協議する場合(職員会議),風水害などで校舎が被害を受け復旧作業が必要な場合(非常災害等)などです。

資料「時間外勤務を命ずる場合に関する規定」

 教職員の時間外勤務については,「時間外勤務を命ずる場合に関する規定」の第3条で,「正規の勤務時間の割振りを適正に行い,原則として時間外勤務を命じないものとする」とされています。また,第4条には,時間外勤務を命じる場合は『超勤4項目』に限定され,「臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限ること」が明記されています。したがって,この法令をどう拡大解釈をしても,時間外のPTAや地域の役員会はこれに該当しないのです。
 日本は法治国家であり,法律を尊重しなければならないはずですが,教員には当てはまらないことが多いようです。ここが「ブラック問題」の根本なのです。

 ですから教員の残業は黙認されているのが現状ですが,法的には「教員が校長の許可なく学校施設を勝手に使っている」ということになるのです。この状況に対して,反対派からは「残業する教員に施設使用料(教室)と電気代を負担させるべきだ」という過激な意見も出ていました。 

 実際には校長の職務命令による校務分掌として,PTA係や地域担当などを任され,夜間の会合に出席することが多いです。これらは法的に矛盾しており,小規模校では若い教員がスポーツ少年団の担当や地域活動を掛け持ちするケースも見られます。また表向きには単なる「連絡係」という位置づけですが,実際には日々の練習の指導や土日の試合応援まで含まれることが多く,実質的に義務的な業務となっています。このような状態が週に3~5日続いており,仕事を自宅に持ち帰る「ブラック問題」に繋がっているのです。

・ スポーツ少年団の連絡係兼指導者

異論・反論~議論・討論②「教職調整額」

 教員の労働問題を論じる際,「教員は聖職者だから子どものために時間を惜しむな」「教員はお金の話をするな」という意見が必ず挙がり,これが長らく議論の妨げになっていました。また,「教員公務員は安定しているから残業手当など細かなことではなく,民間の労働環境の整備だけでよい」という考えが根強いのも事実です。しかし,このような考え方が日本全体の労働環境の改善を遅らせている要因の一つなのです。

 公務員の給与については,労働権の制約を補うための人事院勧告によって適正な水準が保たれています。一方,大企業はともかく,中小企業ではベースアップを抑える傾向があります。しかし民間企業も人事院勧告の民間準拠の影響を強く受けていると言われています。ですから民間の賃上げを要求するには,公務員の処遇改善と一体的に取り組むことが効率的なのです。公務員と民間の労働環境を同時に向上させることが,日本全体の労働環境を改善することに繋がります。

4%の調整額とは

 私が民間企業に勤めていた頃,時間外の接待や出張があった際には,上司からの命令がなくても自己申告と領収書によって残業手当や出張手当がほぼ支給されていました(当時はバブル期)。一方,教員には「4%の調整額」があるから残業代は不要だと説明されてきました。この4%の調整額は計算上,一か月平均5時間程度(一日当たり15分)の残業代に当たるようです。しかし,私の新人時代の長時間労働(夜10までの残業)の実態を基に計算してみると,この「4%の調整額」は1日あたりわずか数分の残業代にしかならなかったのです。

 この状況下で「何時間でも働け」と言われ,結果として過労死や自殺が発生しても,周囲の同情はほとんど得られません。この問題が長年放置されてきた結果,教員不足が深刻化していると言っても過言ではありません。若い世代はインターネットなどを通じて教員の実態をよく理解しており,そのため教職を敬遠する傾向がさらに強まっているそうです。

 今さら「調整額を10%(一か月13時間程度で一日当たり39分の残業手当に相当)に引き上げてやるよ」と言われても,もはや遅いのです。若い世代にとって,給与は必ずしも優先順位の高い要素ではありません。彼らは自身の生き方や家族との時間を大切にしたいと考えており,学校教員という職業はその選択肢からすでに大きく外れているのです。この傾向は今後も続くと考えられます。

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