初めての研究授業「つり橋わたれ」

祖谷のかずら橋

 2月にアンパンマンミュージアムや尾道,ヤマトミュージアムなどを訪れて以来,4回目の四国旅行でした。今回の目的は,祖谷のかずら橋を渡ることと,NHKドラマ『旅屋おかえり』の舞台になった内子町を訪れることでした。

 鹿児島の自宅を朝6時に出発しましたが,休憩を取りながら走っても片道9時間近くかかります。年齢を重ねると,さすがに長距離運転は疲れますね。特に大変なのが,清武ジャンクションから先の東九州自動車道です。片側1車線の区間が続き,PAも少ないので,休憩や運転交代も思うようにできません。夫婦で交代しながら走りますが,川南PAから佐伯ICまでは,何となく緊張が続きます。佐伯ICを降りて佐賀関のフェリー乗り場に着くまで気が抜けません。

 国土の均衡ある発展や東九州地域の発展のためにも,早く4車線化を進め,パーキングエリア(PA)も増やしてほしいものです。安心して走れる道路が整えば,九州と四国の行き来も,もっと便利になると思います。

四国の美しさに魅せられて

 それでも,何度訪れても,四国の美しい景色や名所旧跡の多さには驚かされます。また,お遍路の文化が根付いていることもあってか,旅人を温かく迎えてくれる土地柄も,四国の魅力の一つだと感じます。長い道のりの疲れを忘れさせてくれるような風景や人との出会いがあるからこそ,何度でも訪れたくなるのでしょう。

 四国山地を旅する中で,まず驚いたのが,渓谷沿いからかなり高い山肌に集落が点在していたことです。どうやって行くのか,道はどこにあるのか,なぜあんな高い所に住んでいるのか,不思議な気持ちになりました。

 四国山地は急峻な地形で平地が少なく,住居や農地を確保できる場所が限られています。そのため,日当たりや水の確保,耕作のしやすさなど,さまざまな条件を満たす山腹に集落が形成されてきたのでしょう。また,谷底では河川の氾濫などの危険もあり,こうした地形的な条件も集落の立地に関係していると考えられます。

 一方,山地の暮らしを支えてきた産業の一つが林業のようです。実際,国道や県道を走っていると,木材を積んだ大型ダンプカーと何度もすれ違いました。山深い地域で今も林業が営まれていることを,実感する光景でした。こうした集落は,山の地形や自然条件に合わせて住居や農地を確保し,長い年月をかけて暮らしを築いてきたものです。そこに暮らす人々にとっては,先祖から受け継ぎ,代々住み続けてきた,かけがえのない故郷なのでしょう。

研究授業「つり橋わたれ」

 ところで,今回どうしても訪れたかった場所が,祖谷のかずら橋でした。その理由は,初任者研修で初めて取り組んだ研究授業の教材が,長崎源之助著の「つり橋わたれ」だったからです。初めての研究授業ということもあり,教材研究にもずいぶん力を入れました。特に,作中の「足がすくんでしまいました」という表現を,子どもたちにどう考えさせるかが課題でした。

 そこで考えたのが,さし絵を使った演出です。子どもたちを机に伏せさせ,黒板の隅に丸めておいた広幅用紙4枚に描いた渓谷とつり橋の絵を,合図とともに黒板いっぱいに広げることにしました。目を開けた子どもたちの前に,渓谷にかかるつり橋の風景が一瞬にして広がるという仕掛けです。

 ところが,一年目で授業態度のしつけが不十分で,しかも音や絵の演出が強すぎたのでしょう。子どもたちの関心はさし絵に向かい,少しの間,肝心の教材に集中させることができませんでした。授業後の反省会では,いきなり大きなさし絵を見せるのではなく,「先生は,トッコの気持ちを考えながら絵を描いてきました。ゴーゴーと流れる川の音やカッコウの鳴き声も聞きながら,範読テープを聞いてみましょう」と,事前に説明しておけばよかったと指摘されました。なるほど,そのとおりだと思いました。

・光村図書「つり橋わたれのさし絵」

 また,中学校の国語教師出身の校長先生からは,「小説には,さし絵はありませんよね。小学校では,子どもたちの理解を深めるために,さし絵が必要なことも分かります。ただ,さし絵も画家の解釈です。教材の叙述に即した読み取りを大切にする場合には,その点に配慮する必要があります」との指導を受けました。子どもたちが情景を思い浮かべるためには,さし絵が必要だと考えていた私にとって,この指摘は少しショックでした。さらに,「今日の授業では,先生自身の解釈を子どもたちに押し付けているように感じました。もっと自由に考えさせてください」とも指導されました。演出に力を入れるあまり,いつの間にか教科書の叙述から離れ,子どもたちの読み取りまで方向付けてしまっていたのです。

 この授業を通して学んだのは,文章の表現や叙述を根拠に読み取り,子どもたち自身に行間を想像させることの大切さでした。研究授業は,自分の指導を振り返り,教員としての授業力を高める最も重要な機会です。そのことを,今でも強く感じています。

 初任校の3年間で,私は8回の研究授業を経験しました。その中でも,「つり橋わたれ」は,失敗と学びの両面で特に印象に残っている教材でした。いつの日か物語の舞台とも言われる「祖谷のかずら橋」を,自分の目で見てみたい。そんな思いをずっと抱き続けてきました。そして今回,ようやく40年来の夢をかなえることができたのです。

教材「つり橋わたれ」について

・光村図書「国語三上 わかば」より

① 「つり橋わたれ」は,物語の展開を捉えやすく,登場人物の行動や会話から心情を想像できるため,初任教師が文学的な文章の指導方法を学ぶうえで,取り組みやすい教材の一つと考えられます。また,音読や動作化を取り入れることで,子どもたちは物語の世界に親しみ,登場人物の気持ちをより深く考えることができます。ただし,活動を取り入れるだけで読みが深まるわけではありません。教師には,文章の叙述に着目させる発問や,子どもの考えを引き出す働きかけが求められます。
 教材の扱いやすさは,学級の実態や教師の教材研究によっても異なるため,物語の面白さを十分に理解し,子どもの反応に応じて指導を工夫することが大切です。
② 読書好きな子どもを育てるためには,物語の内容を正確に読み取らせるだけでなく,読む楽しさや,新しい世界に出会う喜びを味わわせることが大切です。この教材は登場人物の心情の変化や,現実と不思議な世界が交わるファンタジーの面白さを味わわせるのに適しています。
 教師は作品を十分に読み込み,物語の魅力や子どもが興味をもつ場面を把握しておく必要があります。また,「トッコはどんな気持ちだったのでしょう」と尋ねるだけでなく,「文章のどこからそう考えたのですか」と問い返し,叙述を根拠に想像を深めることが大切です。
 音読や動作化も,楽しむだけでなく,表現の工夫と登場人物の心情を結び付けるように活用します。さらに,自分の考えを友達と交流することで,多様な読みや新たな発見を促します。教材の学習で終わらせず,関連する本の紹介や読み聞かせ,お気に入りの本を紹介し合う活動などを通して,次の読書へとつなげることも重要です。その際,読んだ冊数を競わせたり,一律に同じ本を読ませたりするのではなく,子どもが自分の興味や関心に応じて本を選べる環境を整えたいものです。
 初任教師には,教材研究や発問の工夫に加え,指導案どおりに進めることにとらわれず,子どもの発言や疑問を大切にしながら授業を展開することを伝えたいと思います。物語を読む楽しさを実感し,「ほかの本も読んでみたい」と思える経験の積み重ねが,読書好きな子どもを育てることにつながります。
③ 「つり橋わたれ」の指導では,物語を正確に読み取る力と,読む楽しさを味わう心を育てることが大切です。登場人物の気持ちを想像し,友達と読みを交流するだけでなく,物語の世界に入り込み,「面白かった」「ほかの本も読んでみたい」と感じる授業を目指したいものです。
 初任教師には,子どもが本と出会い,読書を楽しむ姿を大切にすることを伝えたいと思います。若い先生方は是非参考にしてみてください。

・ 隙間から川底が見えるので,トッコのようにかずらにつかまって恐る恐る渡る人が多かったです。

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