日本で初めてニュースキャスター
私が子どもの頃,初めて出会ったテレビのニュース番組が古谷綱正氏(田英夫氏の後任)の『JNNニュースコープ』でした。当時,チャンネル権を持っていた父の影響で,高校時代までこの番組を見続けていました。「おじさんが笑顔で分かりやすくニュースを伝える」,或いは「前任者で淡々と原稿を読み上げる田英夫氏にはない?ニュースネタによって,時折厳しい表情や微笑を折り込む現在のニュースキャスターのスタイルを作った人!」そんな親しみやすいイメージを持っていました。

・古谷綱正キャスター
しかし,いつどのような状況だったのかは思い出せませんが,ある日のニュースで突然画面いっぱいに古谷キャスターの顔が映り,強い口調で政治家批判を始めたのです。言論人として冷静さを失うほどの古谷氏の感情的な態度を初めて見たので,強く印象に残っています。(「※」イメージとしては情報番組「スッキリ」での「加藤の乱」のような感じでした。)
この番組の登場以来,日本のニュース番組を含め,言論機関の番組作りの理念「権力に屈せず,もの申す番組」がワイドショーまで広がり続け,現在の「第四の権力」と言われるまでになったと言う専門家もいます。
戦争体験のあるジャーナリスト
ところで,このニュース番組の初代キャスター・田英夫氏は,戦後の日本で初めてのニュースキャスターとして報道番組の黎明期を牽引した方だそうです。また,田氏は終戦間際に震洋(しんよう)特別攻撃隊の一員として訓練を受けていましたが,出撃命令が下る前に終戦を迎えたそうです。この攻撃隊は訓練や船体の沈没などで敵艦にたどり着くことなく多くの若者が戦わずして命を落としたのです。

・田氏の乗った震洋(向かって右下)
わたしが学生時代の教授(九州の別の震洋部隊に配属されていたと記憶していますが…?)から,特攻部隊の一つとして「震洋」について詳しく聞いたことがありました。これは,250キロの爆弾を積んだ小型船で敵艦船に突撃するいわば船版の特攻隊です。結局,一度も実戦で使用されることなく終戦を迎えたそうですが,その乗組員の一人がニュースキャスターの田英夫氏だったことを知りました。またこの教授は,こんなおもちゃみたいな船で長い距離を進めるはずもなく,もっとも愚かな作戦だったと強調していました。

・加計呂麻島の基地跡
後に田英夫氏が,このニュース番組内でのベトナム戦争の報道の在り方により,突然降板させられたそうです。戦争体験を通して培われた彼自身の生き方や,ジャーナリストとしての信念が深く影響していたのではないかと思います。なお,鹿児島県内だけでも震洋の基地が,坊津や野間池,知覧,長崎鼻など計18か所に設置されていたそうです。

・田英夫キャスター
加藤の乱
「※」 加藤の乱 2019年,タレントの加藤浩次氏が,メインキャスターを務める日本テレビ系列の情報番組「スッキリ」で起こした「加藤の乱」を思い出しました。当時の関連記事のコメント欄にも意見が多く寄せられ,この出来事は「電波ジャック」として諸外国では重大な違反であるとの書込みもありました。 公共の電波を使い,一方的に自分たちの主張を述べる行為は放送法違反に当たらないのでしょうか。その後,この問題は一つの番組内でのこととして処理され,責任問題も曖昧にされてしまいました。(そもそも問題だとすら思っていない日本のテレビ局)ここでも「報道しない権利」(知らんぷりスルー)によって議論されずに自然と消えていった印象です。このような場合,何故か不思議と公務員や政治家の不祥事が都合よく増えるのです。一つの不祥事案件は,逮捕から起訴,判決まで数年に及ぶものがほとんどなので,各段階で取材をすれば新鮮に扱えるのです。そしてテレビ局に都合の悪いことを薄めることができるのです。 日本のテレビ局が自社のアナウンサーをメインにせず,タレントを多用する意味が透けて見えたように思いました。最近のテレビ番組は,報道する責任を取らず,結局は「何でもあり」なのだと,諦めに似た感情を抱いたことを覚えています。 今回のフジテレビ(他局も同様に)をはじめとする問題の根底はここにあると思えるのです。自浄作用が望めないマスコミに対して,これまでのワイドショーのやり方や「加藤の乱」を真似た国民がSNSを通して過激になったとも考えられます。この現象は決して許されることではないのです。 |
「決めつけ刑事」とフェイクニュース
フジテレビのCM放映差し止めを受けて公益社団法人のCM「決めつけ刑事」が話題となっています。このCMは「週刊誌やSNSはデマで,テレビは事実を正確に伝えているので正しい」と受け取れる内容だと感じました。
かつては,芸能界の不祥事(ワイドショー・ネタ)について週刊誌とテレビがお互いに利害関係が一致していた時期もありましたが,その後テレビに数多く出演しているジャニーズタレントを暴き始めたことを一つの要因として「袂を分けた」と私は認識しています。
ジャニー氏の最高裁判決の報道の在り方やその後の民放テレビ局の対応について,先の田氏と古谷氏が生きていたらきっと激怒するはずです。
なお当時は多くのサラリーマンが「〇〇スポーツ新聞と週刊誌はゴシップ記事だから…と分かって読んでいた」と思います。しかし現在では週刊誌がないと「報道しない権利」で,国民は「知ること」すら出来ないと思うと,これもまた怖いことです。大切なことは取り合えず知った上で(テレビ・新聞等で),自ら精査(公共機関のホームページを含め,出来るだけ多くのSNSを利用し)して,自ら判断する時代になったと思います。
兵庫県民はおろかだ
例えば兵庫県知事問題の報道では,「こんな知事を選んだ兵庫県民はおろかだ」と間接的に言っているのと同じことなのです。しかし県民はこれまでの知事の言動や正確な実績を身近に見聞きしており,突然テレビから流れる情報に疑いの目を向け,SNSに多くの情報を求めて行動したのです。
SNSがない時代なら,テレビがいかに事実を曲げて報道しても調べようがなく,何が正しいのか分かりませんでした。(私も当初テレビの情報しか得ていなかったので,なんと酷い知事だと思っていました。)つまり放送法の公平性を無視し,兵庫県民は朝から晩まで同じ内容を繰り返すテレビの情報番組にへきえきしていたのです。
反対する勢力が少ないときには「弱者・少数派の貴重な意見を聞け」と言いながら,街頭インタビューをあたかも国民全体の声として画面に映し,報道内容に都合のいいことを選んで流しているとよく聞くことです。放送法には「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」ことと規定されています。
両方の意見を等しく報道し「判断するのは国民」なのです。新聞社ならともかく,放送局が勝手に編集する必要はまったくありません。「電波を独占し巨大な権力となったオールドメディアから国民が真実を知る権利を守る」こと,それを兵庫県民が証明してくれたのです。

ACジャパンの「決めつけ刑事」
電波オークションの導入
これはアメリカの「フェイクニュース」論争と似た構図を持っているように思えます。一方的に「相手は間違いで自分たちが正しい」と主張する考え方です。ただ,アメリカでは電波オークションにより,報道の自由が認められ,メディアが政党支持を明確にしながらニュースを発信しています。トランプ大統領を支持するテレビ局が存在することで,支持層を拡大したことも一因とも言えるでしょう。アメリカ国民は反対派や賛成派などの多様な情報をもとに自ら考える環境があるのです。「自分の意思で考え行動することができる」この点が民主主義国家として最も大切なことだと思うのです。
一方,日本では民放各社が一斉に特定の対象を攻撃することがあり,そこに報道の公平性や多様性が欠け放送法から逸脱しているように感じます。数年前の「東北新社」のことを考えるとフジテレビの免許停止の話も当然のような気もします。会見で会長が「株式を自由購入するのは当然なことなのだ」と,東北新社の時は決して言わなかったことを言い出す始末で呆れてしまいました。既得権益にしがみつく状態が無くならないのは,三者(官僚・政治・マスコミ)が癒着しているからと主張するジャーナリストの言う通りなのでしょう。
それよりまず,日本も電波オークションを取り入れ,自由に報道すればいいだけの話なのです。何故,既得権益にしがみつくのでしょうか。関連子会社や系列会社,出資企業が多く日本経済に与える影響は大変なもので,社会的責任も大きいのです。もともと安い電波使用料で浮いた資金で関連会社を設立したり,社員に医者並みの給料を渡すために電波使用権があるのでないのです。それでもなお,しがみつくのであれば電波法を「国民が納得する」ように順守して欲しいと思います。
アメリカをはじめ多くの諸外国が電波オークションに切り替えられたのは,この日本特有の三者の癒着が無かったからできたとも言われています。そして何より電波の自由化により,放送内容の質が向上すると共に,関連業界が大きく発展していくのです。まあ官僚や政治家が天下り先を潰すはずもなく,まだしばらく時間が必要だと思われます。
【マスコミと政治と行政の巨大権力に打つ手なし,SNSと外圧に期待するばかりの日本人…】今回の記者会見に海外メディアもきていましたね…期待しましょう。
損害賠償請求
次に,記者会見の中で当該タレントに損害賠償請求は考えていないと社長が表明しましたが,まず電波は国民の財産でありフジテレビのものではないのです。
公務員の場合,職務上の行為に係る訴訟で裁判に負けたら多くの場合,国家賠償法に基づき税金で支払います。しかしその後は,何故かテレビでは報道しませんが,求償権により該当公務員に損失の支払いを求めるケースがほとんどです。(体罰訴訟やプールの水出しっぱなし等,故意又は重大な過失があった公務員や監督権のある上司に対しての求償権)
それは国民の税金を使うからです。同様に電波という国民の財産が,損害(国民側から見て,十分な予算をかけた良質な番組が少なくなる,或いは番組出演者が重大な犯罪を犯し,過去のコンテンツを見れなくなるetc…)を国民が被ったなら当然請求すべきなのです。今回の事案は重大な過失がなかったのでしょうか。電波使用はテレビ局の権利であり,「増やそうが,捨てようがどうしようと勝手である」とでも考えているのでしょうか。
例えば農協は民間企業の形態を取っていますが,法律に基づく法人であるため,不祥事が発生した場合は民間企業以上に責任を問われます。フジテレビをはじめとする民放は株式会社として運営され,広告収入を主な財源とする商業放送事業者です。
しかし,電波法に基づき放送免許を受けており,他国のように自由な参入ができず,法人格団体企業より遥かに守られたいわゆる独占状態で,かつ事業収益に対してダダのような使用料しか払っていない「東欧諸国で言われる公務員率が究めて高い企業」なのです。
企業の法令遵守
最後に今回の記者会見で「企業のコンプライアンス(法令遵守)」に対する質問が多く出ていました。
例えば吉本興業の社長や会長は,お笑い芸人のマネージャーだった方でタレントの不正等が発覚しても厳しく指導できないのではないでしょうか。現に加藤の乱「一般企業ではあり得ない,社員(所属芸人)が会長や社長を公共の電波を使って糾弾する前代未聞の醜聞」が起きたのです。
同様にフジテレビの社長もプロデューサー上がりで,タレントや社員に厳格な法令厳守を求めることが出来ていたのか疑問です。組織としてどのように法令遵守を機能させていくか組織や方法を明確に周知徹底しておくべきことだと思いました。例えば,多くの会社で「当該事案を受けたか或いは見聞きしたことがあるか」などの無記名のアンケートを定期的にとっているケースやその他にも多くの効果的な改善策を立て,関係性のある事案まで担当部署に逐一上がるシステムがあるようです。
まとめ
近年幸いにも,SNSの影響力が広がり,日本での「報道しない権利」がテレビ局に都合良く使われていることを国民が知ったのです。私は今回のフジテレビを糾弾する記者会見(これまでであれば,あり得ない歴史的な事態)を見て,ようやく日本も自由で公平な報道の時代に移りつつあるのではないかと思いました。報道機関もSNSはでたらめであると片付けるのではなく,「国民の声を真摯に聞き,それを経営に生かす努力が求められている」のでしょう。このことはマスコミ自身が不祥事のあった企業等に言い続けていることなので,今回の記者会見は正にブーメランになりましたね。
但し,SNSの在り方についても,他人による成りすましやプライバシー侵害,人権保護の観点などは,法規制で一定の制限が必要なことは言うまでもありません。
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